福岡運輸株式会社(福岡県福岡市)

DXに取り組むことによって、従業員の認識や労働環境を変えていきたい

出典 ITコーディネータ協会発行 / 機関誌 「架け橋」 第35号

日本で初めて冷凍車を走らせ創業者は女性

優秀賞(特定非営利活動法人ITコーディネータ協会会長賞)に輝いたのは、福岡県福岡市で運送事業を営む福岡運輸株式会社である。
 グループ全体では全国90箇所の拠点を持ち、売上の8割を定温物流、食品輸送が占めている。“定温”での物流ということで言えば、今から60年以上前の1958年、日本で初めて
機械式冷凍車を走らせたという大きな特徴がある。また、女性が創業者であるというのも特徴の1つ。トラックを使った物流事業は現在でも男性が多い業界だが、同社は60年以上
も前に、現在の社長の祖母である富永シヅ氏が創業した会社である。
 「我々は創業者精神と呼んでいますが、企業としては社会に必要な仕事をやっていきたい。社会で誰かがやっていかなければいけない仕事をやることを、会社の真ん中のコンセプトに置いて事業をやっています」(代表取締役社長 富永泰輔氏)。

人手不足の問題に対応するためにさまざまなIT化を実現

福岡運輸が抱えているのは、日本の中小企業全体が頭を悩ませている人手不足の問題。同社ではドライバーだけでなく、事務所で働く従業員を含めすべての職種において人手不足に直面し、このままでは事業を継続できないという危機感から、ITを活用した全社最適化の取り組みを行うことになった。
 まず2017 年は「車輌管理システム」の稼働を開始。これは例えばトラックが、新車で納車された後、最終的に売却されるまでの間にどんな点検・修理をしたかを管理するシステム。これまでは各地の担当者が経験で行ってきたが、システム導入後は、いつでも誰でもどこにいても、トラックがきちんと管理され、安全に輸送できるかをチェックできるようになった。 2019年には「バース予約受付システム」「AI 受注入力システム」の2つのシステムの稼働を開始。“バース”というのは、荷物の積卸しのためにトラックを停車する場所のこと。バース予約受付システムはさまざまなベンダーから出されていたが、トラック事業者の倉庫で使うには合わないところがあり、自社で開発をすることになった。システム完成後は倉庫の前でトラックが並ばないで済むようになり、かなりの効率化が図られた。「AI受注入力システム」のほうは、大部分を占めるFAXによるオーダーをFAX複合機の中でPDF変換して、人がチェックをした上で、AIが読み取って結果を返すというような仕組みだ。
 

そして、2021年は「物流情報プラットフォーム『TUNAGU』」を構築した。協力企業がデジタルの技術を使ってデータを連携できれば情報が共有でき、もっと効率良く業務ができるのではないかと考え、この物流情報プラットフォームを考案した。 また、2022年度には「隙間時間教育・研修」を開始し、「動態管理システム」の刷新も行った。

DX戦略を立てもう一段上のところへ

このようなさまざまなIT化に取り組み、ピンポイントで困りごとを解決して、効率化を図っていった福岡運輸。しかし、これを継続してやっていくには、もう一度会社全体で業務のあり方や進め方を再定義する必要があると考えた。そして、誰でも分かる形で戦略を練り、従業員全体の共通理解として広めていくことを目指して、DX戦略に取り組むことになった。
 「DX 戦略を練ったのは、DX 認定を取るのが目的ではなく、取り組みをすることによって会社の風土というか、従業員の認識や労働環境を変えていきたいというのがきっかけでした」(富永社長)
 DX戦略の策定では、「『物流』×『テクノロジー』でデジタル時代の新たな物流イノベーションを創出する」という経営ビジョンを立て、「スマート物流による全体最適化の実現」「物流情報プラットフォーム『TUNAGU』を中核とした付加価値創出」「DXを実現できる組織体制の構築と人材の育成」という3つの基本戦略を立てた。
 そして、DX を推進するために、2022年11月には部門横断プロジェクトとして「T-プロジェクト」を発足させた。このプロジェクトでは、8つのワーキンググループがそれぞれのテーマに応じて、デジタルテクノロジーの調査や、さまざまな技術や解決策の検討、実証実験などを通して、実効性のある取り組みを行う。
 このDX戦略の責任者となったのが、業務推進部システム課の生津瑠美氏。生津氏は「このようなDX戦略を立て、さまざまな取り組みをしっかりと実行していく中で、もう一段上のところで売上の拡大、生産性の向上を進めていきたいと思っています」とDXの狙いを語る。

DX認定プロセスはプロセスガイドラインそのもの

そして、外部専門家としてこのDX戦略を支援したのが、一般社団法人 IT経営コンサルティング九州のITコーディネータ、西一彦氏だ。
 「うちは長い間、信用できるベンダーさんがいて、ずっと一緒にやってきました。物流のことも詳しいし、当社のこともよく知っていて、すごくやりやすい部分もあるのです。しかし、付き合いが長くなるとその弊害も出てきて、さらに加速度的に技術が進化していく中で、そこと一緒にやりながら、第三者の知見も取り入れたいと考え始めました」と、外部の専門家登用の意義を語る富永社長。
 福岡運輸と西氏の出会いは2020年。「福岡市テレワーク促進事業」のサポーター企業に登録されているIT経営コンサルティング九州を、生津氏が見つけた。
 「いろんな会社が手を挙げられていたのですが、ITコーディネータということで親身になって分からないことを教えていただけるのかなと思い、まずは相談させていただくことにしました」
 

西氏も「この事業には400社近い企業がサポーターとして手を挙げていましたが、その中から我々を選んでいただき、本当にうれしかったです。そして、私が何かをするというよりは、一緒になって伴走することを心がけて支援させていただきました」と縁を感じ、DXの推進をサポートした。 そして、「伴走させていただく中で、私自身も研鑽をさせていただけて、非常にありがたい環境でやらせていただきました。ITコーディネータなら経験があると思いますが、支援企業のファンになれるかどうかは非常に大きなポイントだと思います。私は福岡運輸さんの大ファンになりました」と西氏は語る。さらに「DX認定に当たってITコーディネータとしてコメントしておきたいのは、DX認定プロセスというのは、プロセスガイドラインそのものなのです。我々のアプローチはとても近しいところがあるので、その中でそのプロセスを経ていくことによって本当にDXのXまでご一緒できるのではないかなという思いが強くあります」とITコーディネータの強みも感じているという。
 最後に富永社長に、DXを考えている中小企業へのアドバイスがないか
聞いてみた。 「いくらでも方法はあるので、まずはやってみることです。弊社の場合はオリジナルの基幹システムを昔から構築してきたのですが、これには良い点も悪い点もあります。しかし、やってみなければ何も分からないのです。昔はやめるのも大変でしたが、今は簡単ですから」

会社概要

福岡運輸株式会社
事業内容:貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業、倉庫業、不動産賃貸業など
福岡県福岡市博多区空港前2-2-26
https://www.fukuokaunyu.co.jp/

ITコーディネータ

一般社団法人 IT経営コンサルティング九州
理事 西 一彦氏
https://www.itc-kyushu.com/