創ネット株式会社(福岡県福岡市)

DX化によって“絵に描いた餅”状態の経営ビジョンの見直しを

出典 ITコーディネータ協会発行 / 機関誌 「架け橋」 第35号

社員に『経営理念手帳』を配布し経営ビジョンの見える化を

2つめに紹介するのは、優秀賞(独立行政法人情報処理推進機構理事長賞)に輝いた創ネット株式会社。福岡県福岡市で1950年に創業されたエンジニアリングの専門商社である。
 同社では“九州のものづくりを応援する”をモットーに、工場で使用するロボットや制御機器などの生産機械、電気・水・蒸気等のユーティリティ設備の販売、そして顧客の困りごとに対する課題解決の提案などを行っている。主な顧客は製造業の企業。以前は物販のウエイトが大きかったが、最近は顧客の課題を解決するためのエンジニアリングビジネスを強化している。また、その課題解決にあたっては、地元福岡県をはじめ、九州のパートナー企業と一緒に取り組んでいる。従業員は役員を含めて26名。
 創ネットの経営理念は「ネットワークとオートメーションで心豊かな社会の実現に貢献すること」。そして、経営の見える化、ビジョンの見える化を行うべき『経営理念手帳』なる手帳を作成し、全社員へ配布。さらに、毎日朝礼を行い、経営理念や経営方針
を全社員で唱和しているという。
 同社では2023年度より3年間の中期経営計画をスタートさせ、限られた時間と人を最大限に活用し、「工場まるごと“おむすび屋”になる」「楽しく楽して儲けてもらう」という経営ビジョンを掲げて活動を行っている。同社は工場の顧客が多く、現場ではさまざまな困りごとや課題がある。それらを解決するために、課題解決を実現できる

生産性を上げるためにDXへの取り組みをさらに強化

そして、楽しく楽して儲けるには、いかに生産性を上げるかが課題になり、生産性を上げるにはDXへの取り組みをさらに強化する必要があると考えている。
 そのDX戦略は、「中核事業の再強化」「成長事業の強化」「業務効率の向上」を基本方針に掲げ、第1ステッ
プとして生産性の向上、第2ステップとして売上の拡大を目指して推進活動を行っている。現在は第1ステップに当たり、「マーケティングオートメーション」「入力レス化」を推進してきた。
 「マーケティングオートメーション」では、修理メンテナンスや産業用ロ
ボットなどの専用サイトを開設。開封率やクリック率が分かるようなシステムを導入し、ピンポイントで営業が行えるようにした。また、実際にこの方式で受注した案件をサイトに載せることによって、顧客が見て飽きないような工夫をするなどSEO対策も行った。

 「入力レス化」のほうは、「福岡市DX推進モデル事業」の支援を使って検討された。入荷入力のシステムでは、商品入荷時の納品書をOCR機能付きのハンディスキャナで読み込みデータ化して、入力レスを目指した。さらにOCR 機能付きのWeb-FAXを活用して注文書をデータ化し、受注入力の入力レス化も目指した。FAXはPDF化され、注文書であるかどうかをAIで判別。注文書であると判別されたものについては、CSVで出力するというような流れになっている。ただし、両方ともさまざまな課題が見つかり、現時点ではまだ運用に至っていない。

人材問題に対応するためにも中小企業でもDX化を

また、創ネットではDXとサイバーセキュリティはセットで考える必要があると捉え、悪意あるリンクをクリックさせないというクラウド型の出口対策のソリューションシステムを導入。専門家がいなくても最新の運用が可能になり、また月次のレポートの見える化や、安心した在宅勤務などを実現することもできた。
 そして、現在はビッグデータを活用した新システムを構築中だ。社内の販売管理システムには過去から蓄積している莫大なデータがあり、そのビッグデータを活用し、前年と比較して実績が落ちている顧客や、受注が減っている商品などを早期に見つけ、対策が打てる仕組みを構築している。また、同システムを使い、仕入れ先や仕入れ価格の見直しによる収益改善、販売品目の傾向分析を行った上での営業戦略の立案などにもつなげていきたいと考えている。
 将来的には、このシステムにAIなどを搭載し、さらに使い勝手の良いシステムに改良した上で、同業他社へ再販していこうと考えている。
 このように積極的にDXを推進してきた同社だが、「DXというのは実は今も全然意識してないです。僕はまだ所詮ITツールの活用としか思っていないです。ただ、入力レスをはじめとしていろいろなことに挑戦することによって、中小企業のDXのショールームみたいな存在に弊社がなれたらいいと思っています」と語るのは代表取締役社長の小口幸士氏。
 一方で、小口社長は「中小企業は人材問題というのが大きな課題であって、そこを何とかする意味でもDX化というのが必要だと感じています。中小企業こそ、今やらないとダメです」と、DX化の必要性を唱える。

中小企業がDXを進めるには専門家と良いパートナーシップを

ITコーディネータの栗脇昭博氏との出会いは3年ほど前。2021年5月に「入力レス化」を実現するために「福岡市DX推進モデル事業」に応募した際に紹介された。
 栗脇氏と知り合ったときは、同社では経営ビジョンの策定やDXを実現するためのシステム開発などは自力で行っていたが、まだ自社内の業務の最適化を目指しているレベルであり、
外部とのつながりや業界全体のサプライチェーンの最適化には程遠かったという。
 しかし、栗脇氏は「経営ビジョンや理想もしっかりお持ちで、そこを明確に打ち出されているので、すばらしいと思いました。『経営理念手帳』というのも、従業員に対してきっちり情報発信、情報共有されて、それもすごいと感じました。そして、社長は結構謙遜されているのですが、やっぱりリーダーシップがかなりあると思いました。また、自社だけではなく業界全体の最適化を目指されているところもすごいと感じていました」と小口社長の手腕を高く評価している。
 その栗脇氏から「いろいろなことにチャレンジしてきて、せっかくここまで来たのだからDX認定にチャレンジしてみませんか」と言われ、同社では挑戦することになった。
 DX認定の支援では、一番苦労したのは申請書の書き方だったと栗脇氏は語る。小口社長も「申請フォーマットはITコーディネータさんがいないと書けなかった」と言い、さらに「中小企業がDXを進めるには、ITコーディネータなどの専門家との協業、そしてより良いパートナーシップを築くことが必要不可欠であると考えます」と語る。

 栗脇氏も「DX認定に挑戦することによって、社内で色々な整理ができます。そのプロセスが非常に重要なのです。そのためには私たちがお手伝いできるところもあるので、ぜひ支援
させてほしいと思います」と語る。
 さらに「中小企業の皆さんは、一応、会社の経営ビジョンは書いてあるのです。けど、実践が全然伴ってなくて、“ 絵に描いた餅”の状態のところが結構多いのです。だからDX化とい
うのは、まずはビジョンそのものを見直す必要があります。DX戦略を立てると、いきなり売上が上がるということはないですが、やっぱり中小企業にとってDXを意識するのは、企業の変革にとってはとても重要なことです」と栗脇氏は強調する。

会社概要

創ネット株式会社
事業内容:FAエンジニアリング、制御盤設計、制御盤製作、制御機器の修理、各種省エネ工事など
福岡県福岡市博多区築港本町6-3
https://www.sonet.ne.jp/

ITコーディネータ

一般社団法人 IT経営コンサルティング九州
代表理事 栗脇昭博氏
https://www.itc-kyushu.com/